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   南部如月流茶道指南三条みゆき  其の八十九


  あぁ、 そう云えばみゆきさん、 最近家元の容態が余り良くないと聞いておるがみゆきさんも何か聞いておるかな、 源蔵は地下室への道すがら長らく療養を続ける南部如月流第十一代家元の南部夕弦斎の身体を心配するように問いかけたのだった。
 はい、 私も家元様のお身体を大変心配しておりますが、其の事は沙織先生もあまりお話になりませんから良くは分かりませんですの、  ただ最近療養先から又病院の方に移られた事だけはお聞きしましたが、 本当に心配ですわ、 みゆきはいかにも心配そうに応えたのだった。  うん、 そうじゃな、 家元も早く元気になれば良いがな、 うん、 うん、 そうじゃ、 そうじゃ、 源蔵も素直にそう思ったのだ。   確かに家元派とは何かと対立する理事長の源蔵ではあったのだがもし万が一にでも今十一代に死なれては理事長を務める源蔵にとっては非常に困る事が眼に見えていたからだ。  
 そうなれば当然その時点で南部如月流の十二代には源蔵の宿敵でもある南部沙織が襲名する事は決まっていたのだ。 其れだけではない、 理事会で筆頭理事を務める南部沙織の後任人事にも影響を与える事にもなるのである。  又、先日理事会では引退を表明した理事の一人でもある南部義勝の後任人事の人選の一件でも難攻している状態に源蔵は頭を悩ませていたのだった。 
 病弱で温厚な性格の十一代がゆえに源蔵も理事会では大きな力を持ち南部如月流の最高実力者の地位を確立していたのだ。  だがもし南部沙織が今第十二代の家元に襲名してしまったら、 今迄忘れ去られていた家元としての威光を発揮されたら、  もし理事会の意向を上回る権力を手にされれば、 源蔵には理事長の地位も安泰ではいられなくなる恐れがあったのである。  
 ゆえに源蔵の頭の中には一日も早く権力基盤を盤石にする為の情報収集と理事長派の勢力拡大に励んでいたのであった。 
 う~ん、 暗い話じゃな よしよし、  そんな暗い話はもうやめておこう、  せっかくみゆきさんが来てくれたんじゃからな、  よし、 それじゃぁ、もっと楽しい話でもしようかな、  う~ん、 そうじゃな、 みゆきさん、 本当にこの話は此処だけの話じゃぞ、  これは未だ絶対秘密の話じゃからな、  源蔵はいかにももったいぶる素振りで話し出したのであった。  えっ、 絶対秘密の話 ?  みゆきもそんな秘密の話をしてくれる事が嬉しかったのか興味深く聞き込んだのであった。
 うん、うん、 そうじゃ、  この話はまだ本決まりではないんじゃがな、  来年の園遊会には外務大臣の山岸さんが出席してくれるようなんじゃ、  それにな、 山岸さんが出席してくれたら、 ホラ、 あの新しくアメリカの大使として就任した人気の高い女性大使も一緒に出席してくれる可能性もあるとの事なんじゃ、  どうじゃ、 そうなったら凄い事じゃろ、  源蔵は決まってもいない話をまるで子供が自慢話をするように得意げに話していたのだった。  うん、 うん、 これも皆みゆきさんの御蔭かも知れんな、  そうじゃ、 そうじゃとも、 こうなったのもみゆきさんの新茶道にかけた情熱の御蔭なんじゃからな、  ふっ、はっ、はっ、  源蔵は上機嫌に笑ったのだ。  まぁ、 本当ですの、  あのアメリカの大使さんも ? みゆきも半ば理事長の話が大袈裟な嘘ではないと思っていた。  其の話には外務省の外郭団体で茶道の国際広報を務める沙織の妹の薫子の存在が大きかった事をみゆきも知っていたからだ。
 本当に私達の園遊会にそんな方がいらっしゃったら素敵ですわね、  みゆきも其の話に嬉しそうに応えるのであった。  おぉ、  そうじゃろう、 そうじゃろう、 そうなったら京都の連中がどんなに驚くか今から楽しみじゃて、 うっ、ひゃっ、ひゃっ、 これも今思えばあの時の理事会でのみゆきさんの提案から始まった事じゃから、わしはあの時の理事会ではいったいどうなってしまうのかと心臓がドキドキしたもんじゃ、  
  しかしみゆきさんも大した役者じゃな、 本当にビックリさせられたもんじゃ、  今思い出してもあの理事会でのみゆきさんの役者ぶりには驚くしかなかったからな、 うん、 うん、 大変な役者さんじゃ、  あっ、はっ、はっ、 うわっ、はっ、 はっ、  広大な旧武家屋敷の奥深く、 山に覆われるように螺旋状に建てられた建物の三段間の部屋から地下室に向かう途中、秋の明るい日差しが二人を照らす中、 この屋敷の主、 黒柳源蔵の爽やかな笑い声が響いていたのだった。
 まぁ、 大した役者?だなんて、 うふふっ、 そんなの意地悪ですわ、  先生こそあの時の言葉には私もビックリさせられたんですもの、  本当に今でも先生のお気持ちが私には良く分かりませんわ、 茶道指南三条みゆきもあの時の理事会での誰もがアッと驚く意表を突いた理事長の振舞いには驚かされていたのだ。 其の振舞いに三条みゆきまでもが約束を信じて挑んだ理事会で一瞬理事長に裏切られたと感じたのであった。  源蔵はその振舞いで南部沙織を始め家元派を完全に騙したのであったがその中で三条みゆきまで騙されたのであったのだ。  ただ源蔵は皆を騙す事によって三条みゆきとの約束を果たし南部沙織には理事会が終わった後にも何の疑いもなく新茶道への改革案を受け入れた事に感謝されるように頭を下げられたのであった。 
 二人の思い出の会話からは当然三条みゆきが初めて此処を訪れ険悪な感情が流れる中で源蔵と激しく討論を交わした時の重々しい雰囲気は微塵もなかったのだろう。  あの日以来南部如月流理事長と今では関東総支部長に大抜擢された三条みゆきとの間には他人には想像も出来ない堅い秘密の絆が結ばれていたのである。  
 無理やり着物を脱がされこの建物の秘密の地下室の中で散々卑猥な責めを受けた三条みゆきだったが源蔵が睨んだ通りこの美しい茶道指南三条みゆきはこの蜘蛛屋敷を離れる際には心身ともに源蔵の魅惑の虜にされていたのだった。  
 二人が思い出していた理事会とはみゆきが帰り際に渡された闘茶に関する古い資料をもとに新茶道への改革案を提起された理事会での出来事を指していたのだった。  
 三条みゆきはこの屋敷を離れた後、東京に帰るなりすぐに南部沙織のもとを訪ね理事長と交わした会話の内容を報告したのだ。  勿論、その内容の殆どは嘘の混じった報告であった事は云うまでもなかっただろう。
 二人は夢のような至極の時を過ごした後、現実に戻るが如く三条みゆきが帰る間際まで其の報告の内容を細かく打ち合わせていたのであった。  それはお互いが最も恐れる事が南部沙織に自分達二人の関係に疑念を持たれる事であったからだ。  頭の切れがよく鋭い感性に優れた指導力に定評のある南部如月流の筆頭理事南部沙織に二人の関係を知られれば其の弟子でもある三条みゆきにとって取り返しの付かない最悪の結果が待っていた事など容易に想像できた事なのだから。 
 だが其れほど疑い深く人を見る眼にも定評のあった南部沙織もその時の理事会では見事にこの二人の役者に騙されていたのであった。
 その時の詳細は後程でも記す事にしようと思っているが、 理事会での様子は本当は今のように笑っていられる程簡単に進行した訳ではなかった事だけは確かな事だったのである。
 源蔵の頭の中には頑なに伝統を守るという信念を筆頭理事でもある南部沙織に如何に気付かれぬようにして三条みゆきとの約束を果たすかにかかっていたのだろう。   ただ源蔵の思いは理事会が思わぬ方向に紛糾し約束を果たせず美しい茶道指南三条みゆきとの深い絆が切れる事への不安の方が勝っていたのかも知れないのである。  皆が真剣に南部如月流の未来を案じて討論が行われる中でも源蔵の頭の中では三条みゆきのお尻の穴を今すぐにでも見たいと云う卑猥な思いに下半身を熱くしていたのだ。  だが源蔵のそんな不謹慎な思いが三条みゆきを驚かせ又南部沙織を見事に騙す事に成功する事等この時は源蔵自身も知る由はなかったのである。
  新茶道への改革案に理事の面々を筆頭に全国から集まった支部長クラスの幹部の眼の前で必死に改革案を説明する三条みゆきや外務省の外郭団体で茶道の国際広報を務める国際派で沙織の妹でもある南部薫子の提案に南部如月流の未来がかかった大切な理事会でもあったのだ。   
 その様な大切な理事会の席上で南部如月流の最高の実力者でもある黒柳源蔵がそのような不謹慎な思いを描いていた事など誰にも知られる事はなかったのである。
 三条みゆきは其の大切な理事会が無事に終わり暫く経った頃、 源蔵から渡された古い闘茶の資料を持って又この屋敷を訪ねたのであった。   源蔵はさぞや嬉しかったであろう。  源蔵は当然この日を待ちに待っていたからだ。   
 源蔵は三条みゆきが必ずまたこの屋敷にやって来るだろうという自信はあった。  しかし其れを確信する事は出来なかったのだ、  其の為この資料もいわば無理やりにでも三条みゆきに渡したのは少しでもこの屋敷を再度訪れやすくする為の配慮でもあったからなのだ。  茶道指南三条みゆきは今でもプライドが高く誇りをもって茶道一筋に励んでいたのである。  そんな娘が又この屋敷を訪れればあの地下室で又理事長との卑猥な関係を持つ事は眼に見えていたであろう、
 だが一方で三条みゆきは源蔵の命の卵から放たれた喩え様もない薇醜の香りにあの時以来、女の身体の奥底の厳美が無性に疼くのを感じていたのだ。  今では疲れた時でも夜眠る前にはあの時の眼をギラギラと輝かせふんどしを脱ぎ捨て猛り狂った男の性器を昂ぶらせた理事長の姿が浮かんでいたのであった。 又そのグロテスクに黒光りした蛇の頭のような男の卑猥なモノが両手を高く縛り上げられた自分の顔の眼の前に迫って来た時の状況を思い出しては股間にそっと手を伸ばしながら女の身体を熱くしていたのだった。
  しかしその様な妖艶な思いなど決してこの理事長には努々云える事ではなかったのであろう、  その反面三条みゆき自身も身体からの欲求にこの屋敷を訪れたいとの願望を少なからず抱いていたのだった。  其の為にこの資料を返す為に屋敷を再度訪れた三条みゆきにも大儀としては非常に都合が良かったのである。 
 源蔵も其の事は十分承知していたのであろう、  茶道指南としてのプライドを立てるように地下室のあの茶室に誘う時まで一切卑猥な思いは抱かず闘茶への真面目な話に没頭していったのだった。
 勿論、 その後には茶室の奥に隠された秘密の場所で野獣のように美しい茶道指南三条みゆきの身体に襲い掛かっていった事は云うまでも無いことであったのだが、  
 
  話の途中だが此処で一つ疑問に思われる方もおられるかも知れないのでこの蜘蛛屋敷についてもう少し詳しく説明をしておこう。  二人の関係を南部沙織に知られる事をもっとも恐れたと云いながらも三条みゆきが何度もこの屋敷を訪れるのは矛盾しているのではないかと疑念を持たれた方もおられるだろうからだ。  確かにこの広大な旧武家屋敷は南部如月流茶道の研修道場の役目を果たしていたのである、 しかし其の時期は年に二度四月と十月の月に限っていたのだ。 そしてもう一つは南部如月流の最大の行事で全国的にも知られ毎年如月月に華やかに行われる南部如月流大園遊会の会場として使用される事なのである、  この行事には一月の初めからその準備の為に全国から多くの門下生が訪れるのだがその豪華絢爛な園遊会が終われば殆ど訪れる者は限られ静閑な武家屋敷に戻るのである。  又、この屋敷の近くには如月流の専用の茶園や老舗の茶問屋が軒を並べていた為、茶闘師になった三条みゆきにも都合が良かったのだろう。   
 それに古来からの日本の伝統文化に優れ交友関係も多彩な源蔵の元には年間を通じて美しい着物に身を包んだ多くの女性が訪れていた為タクシーの運転手達にも怪しまれる事はなく三条みゆきや他に名を知られた美しい女達も此処ではいくら卑猥な行為に及ぼうが外に漏れる事はなかったのである。
  
  二人はいつの間にか笑顔のままに地下室に施された茶室の前まで来ていた。  あぁ、 そう云えばみゆきさん、 この前の吉岡久左衛門の茶碗は大事にしてくれているのかな、 あの茶碗があそこから無くなってわしは寂しい思いをしているんじゃが、  源蔵は前回此処を訪れた三条みゆきと闘茶の勝負をして負けた代償に大切にしていた明治時代の陶人で知られる久左衛門の茶碗を三条みゆきに持っていかれた事を未練がましく尋ねたのだった。  
 うふっ、 勿論ですわ、 あの茶碗はリビングに飾っていつも眺めているんですもの、  みゆきは誇らしく応えるのであった。  う~ん、 そうか、 そうか、 其れは有難いもんじゃ、 そんなに大事にしてくれるのならあの茶碗も幸せじゃろうからな、  ふっ、ふっ、ふっ、  しかし今日は負けんぞ、  今日の題目のお茶はみゆきさんの利き茶でも難しいはずじゃからな、 残念じゃが今日はわしが勝たせてもらうんじゃから、 うっ、ふっ、ふっ、
  本当にみゆきさんと勝負をして毎回負けていたら此処に飾ってある茶碗は全部取られてしまうんでわしはたまらんからな、 はっ、はっ、はっ、 絶対今日はわしが勝つんじゃ、   勿論これは源蔵の冗談である事は云うまでもない事であった。  前回、源蔵は負ける事は分かっていながら自分が選んだ久左衛門の茶碗を差し出していたからだ。  無論、南部如月流で行われる正式な闘茶ではこのような負けた方が代償を払うなどと云う事はなく、あくまでも闘茶は茶道の一環としての作法の一部なのである。 
 それに源蔵は前回の勝負の時も自分が負けたら貴重な茶碗を差し出すと云いながら勝った時の要求はする事はなく、ただこれからも時間がある限りみゆきさんには何度でも此処を訪れて欲しいといった願いだけであったのだ。
 ふっ、ふっ、ふっ、 それじゃあ、みゆきさん、 今日は何を所望されるんじゃ ?  それとももう其の所望は考えてあるのかな、 よしよし、 まずは其処からじゃな、 源蔵は興味深く聞いたのであった。  まぁ、 先生、 全部取られるなんて、 うっ、ふっ、ふっ、 いいですわ、 でも私は負けませんから、  みゆきは絶対の自信があったのであろう、 源蔵の指摘したシルクシソーラーの特殊な舌の才能をあれ以来益々進化させ今では其の才能に誰も勝つ事は出来なかったのだから、  ただ此処での闘茶には唯一三条みゆきの秘密の才能を知る源蔵との勝負であるが為にいわゆるハンディーを課していたのだった。  その為に源蔵が勝負に十分勝てる可能性はあったのである。  
 分かりました、先生、  それじゃあ、 今日は先生の方から先に所望をして下さい、 私も其の所望に合わせて応えさせて頂きますから、  みゆきは自信に溢れるような堂々とした声で云ったのだった。  ほう、 そうか、 そうか、 わしが先か、  源蔵は少し戸惑ったが数日前から考えていた今日の所望を口に出したのだった。
 しかし其の所望はこの美しい茶道指南三条みゆきを前にして堂々と言えるモノではなかったのである。  
 う~ん、 それじゃあ先にわしから所望させてもらおうかな、  うん、うん  それじゃあ、 みゆきさん、  わしはな、 わしはあれをな、 うん、 あれを、 うん、 あれをさせてもらいたいんじゃ、   ? 理事長の声は何故かみゆきの耳には聴こえずらく小さく萎むような声に変っていたのだった。   源蔵もさすがにこの神聖な場では面と向かってアレをさせて欲しいとは言えなかったのであろう、 其れも当然の事だろうか、  背筋をスッと伸ばし美しい着物姿に凛とした姿で堂々と向き合う筆頭茶闘師の称号を持つ三条みゆきに対してそんな卑猥な要求など簡単に出来るものではなかったのであろう。   だが当然理事長がどんな所望をされるのか耳を研ぎ澄まして聞き入っていた三条みゆきは理事長が何を言っているのか分からなかったのだ。
 えっ、 先生、 何ですか ?  あれって、 あれって何の事ですか、 みゆきはあれが何だかわからず逆に大きな声で聞き返したのだ。
 う~ん、 いやいや、 そんな、 そんな大きな声を出さんでくれ、 うむっ、 本当に生真面目な娘さんは此れじゃから困るもんじゃ、   源蔵は益々バツが悪かったのであろう、 みゆきの透き通った眼を避けるように茶室の奥に隠された秘密の部屋の方を指さして言ったのだ。  みゆきさん、 あの部屋の一番奥の部屋でな、 あっ、あれをな、 あれをさせてもらいたいんじゃ、  
 みゆきは奥の部屋をもじもじと恥ずかしそうに指をさした事で理事長が言ったあれが何なのか今度はすぐに分かったのだ。  えっ、 まっ、まさか、 あのお部屋は、  いっ、いやだわ、  本当に ? 本当に未だ先生はあの事を諦めてはいなかったのかしら、  みゆきの頭に一瞬、前に見せられたあの一番奥に隠された汚辱の部屋のベネチアンタイルの真っ白な絵模様が思い浮かんだのであった。   浣腸、 そう、 源蔵の所望はこの三条みゆきの美しい尻の穴に浣腸をする事だったのである。    そっ、そんな、そんな事、 先生が、 先生がそんな所望をされるなんて、   みゆきは一瞬言葉に詰まっていたのだ。  無理もない、  みゆきはあれからも何度かこの蜘蛛屋敷を訪れていたのだ。  そしてこの地下室の奥で源蔵と卑猥な情欲を交わしていたのだ、 また少し生えて来たなといわれながらあの産婦人科の診察台のような卑猥な椅子の上で足を開かれ恥ずかしい股間の毛も剃られていたのであった。  しかしどんなに源蔵が要求しても一番奥に隠された浣腸をする為の部屋だけは頑なに拒否をしていたのだった。  其れは茶道指南三条みゆきのプライドであり最後の誇りでもあったのであろう。  だが其の事が逆に源蔵にとっては今迄唯一の心残りでもあったのだ。  
 源蔵は恐る恐る反応を確かめるように自分を見つめる三条みゆきを見たのだった。  みゆきはしばらく黙っていた、 そして云ったのだ、  良いですわ、  先生、 其の先生の所望、 わたくしは受けますわ、  うん ? 源蔵は信じられないように思わずみゆきの眼を見たのだ、  えっ、 受けますじゃと ? 源蔵は予想外だったのだろう、  みゆきは源蔵が言った卑猥な所望を聞かされた瞬間、急に顔色が変わった事を感じていたからだ。  しかし其処で狼狽する様な三条みゆきではなかったのであろうか、逆に余計に闘志が湧いてきた来たのだ、   うふっ、 そんなの何でもないわ、  そうよ、 勝てば良いんですもの、 そうよ、 負けないわ、 絶対負けるもんですか、  筆頭茶闘師三条みゆきは自信に溢れる思いのままに源蔵の其の卑猥な所望を受け入れたのであった。  だが源蔵の思いは違っていたのだ。  良いのか、 本当に良いのか、  源蔵は急に嬉しさが込み上げて来たのだ。  源蔵の脳裏にはお手伝いの多恵が今日の晴れの舞台の為に用意したあの誤魔化しの抹茶の美しい深緑色の茶が思い描かれていたのであった。  くっ、ふっ、ふっ、 みゆきの其の言葉に源蔵の下半身も疼く様に大きく反応した事は云うまでもなかったであろう、  だがその後の三条みゆきの言葉にはもっと驚かせられるのであった。  良いですわ、 先生、  それじゃあ、 わたくしも其れに合わさせて頂きますからね、  ふっ、ふっ、 みゆきは云ったのだ、 先生、 それじゃあ、 わたくしも所望させて頂きますよ、 先生、良いですか、 先生、 絶対ですよ  それじゃあ、 もしわたくしが勝ったら  せっ、先生の、 先生のお尻を叩かせて頂きますからね、  あのお部屋で、  三条みゆきは理事長と眼を合わせながら源蔵が指さしたあの奥の部屋に向かって言ったのであった。 
  うん ? なっ、何 ? 何と ?  今、 何と云ったんじゃ ?  源蔵は背筋をきゅっと伸ばし美しい着物の袖を取るように指し示す三条みゆきの指先を見ながら飛び上がる程驚いたのだ、  わっ、わしの尻を叩きたいじゃと ?  あの部屋で、 わっ、わしの尻を? わしの尻を、 たっ、叩きたい? 本気か、  本気でわしの尻を叩きたいのか ?  源蔵は想像も出来ない三条みゆきが放った言葉に腰が抜ける思いを感じたのだった。  

 蜘蛛屋敷の奥深く、かくして二人のプライドと誇りを賭けた凄惨な戦いの火ぶたは切られるのであった。 

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