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    南部如月流茶道指南 三条みゆき 其の九十


 なっ、 何じゃと ? わしの尻を叩きたい ? わしの尻を  このわしの尻を、  ふわっ、はっ、はっ、  蜘蛛屋敷の奥深く、  南部如月流最高実力者黒柳源蔵の呆れた笑い声が銀色にまぶしく輝く茶室の前で響き渡っていた。 
  
  いやいや、  こっ、此れは参った、 あぁ、 何と云う、 何と云う所望じゃ、 本当に、 本当に参ったもんじゃ、 うわっ はっ はっ、 うわっ はっ はっ、  みっ、 みゆきさん、 あんまりわしを驚かさんでくれ、  ハッ、ハッ、ハッ、 う~ん、 あぁ、 本当に信じられん、 ビックリしたもんじゃ、  源蔵は三条みゆきが云い放った驚くべき言葉に暫し狼狽えてしまったのである。
 なんと云う、 なんと云う娘さんじゃ、 本当に、 本当にそんな事を思っていたのか、 わしの事を悪魔とまで言っていたみゆきさんが、  くっ、ふっ、ふっ、 それこそあんたの方がよっぽど悪魔じゃ、 源蔵はそう言いながらも嬉しかったのだろうか。  源蔵は其の言葉に驚くとともに喩え様もない嬉しさが込み上げて来るのを感じたからだ。   先生のお尻を叩きたい?  源蔵にしてみれば、プライド高く気品溢れた茶道指南、三条みゆきの口から出て来る事が信じられなかったのである。  例え其の言葉が冗談であったとしてもあの時の無理やり両手を縛りあげ卑猥な行為を強要した事を自分の尻を叩く事で許してくれると云う思いを感じていたからだ。  だがみゆきからすれば其の所望は当然の思いがあったのである。  確かに今はお互いが笑みを浮かべて会話も弾む良い関係である事は間違いはないのであろう。 しかし三条みゆきの心の奥底には決して消え去ることの出来ない理事長への恨みにも似たトゲが刺さっていたのだ。  其れも当然の事であろうか、  新茶道への純真な気持ちでこの蜘蛛屋敷に乗り込んで来た三条みゆきは最初からこの理事長に好意を抱いていた訳ではないのだ、 それどころか無理やりこの地下室で着物を脱がされ素っ裸にされた後、繰り返し恥かしい責めを受けていたのだ。  いくら其の卑猥な責めで女の喜びに身体を濡らし自ら淫乱に堕ちていったとしても誇り高い茶道指南三条みゆきにとっては決して許せない思いを抱いていた事は至極当然の事であったのである。
 うふっふっ、 面白いもんじゃ、 しかし  みゆきさん、 余りわしを驚かさんでくれ、 何と云う所望じゃ、  わしはびっくりして腰が抜ける思いじゃぞ、  源蔵は本当に其れが高価な茶碗よりも価値のある所望なのか確かめる様に薄笑いを浮かべながら三条みゆきの顔を見たのだ。  くすっ、 勿論ですわ、  私が勝ったら先生のお尻を叩かせて頂きます、 其れも思いっきりですよ、 いいでしょ、 先生、 みゆきも同じように薄笑いを浮かべて応えたのであった。  うん ? 思いっきりじゃと、 源蔵は一瞬ビクっとした。 まっ、まさか、 あの時の自分の二つの卵に対する加減を知らない三条みゆきの恐怖の体験を思い出したのだ。   ふ~ん、 面白いもんじゃ、 わしの尻を思いっきり叩きたいとはな、 ふっ、ふっ、  源蔵は心の中では其れも面白いと思ったのかも知れない、 しかし源蔵は未だこの若い娘が加虐の悦びと受虐の悦びについて本当の意味での理解はしていないだろうと思っていたのである。  う~ん、  困ったもんじゃ、  この所望はわしに対しての恨みを晴らす為か ? 其れとも本心から自分も男の人の尻を叩いて悦びを感じたいとでも思っているのか ?  先生のお尻を思いっきり叩きたい、 其の所望の意味を源蔵は量りかねていたのである。   さすがの源蔵も言っておかねば考えたのか、  みゆきさん、 しかし其れはないじゃろう、  あのな、 わしは仮にも南部如月流の理事長じゃぞ、  其の理事長さんの尻を叩くとな ?  うん、 あむっ、 其れはいかんじゃろう、 ううむっ、 みゆきさんはもっと他に何か所望したいモノはないのか、 そうじゃ、 あの茶碗はどうじゃ、 ほらっ、 匠かな信楽じゃ、  源蔵は咄嗟に本心を確かめる様に茶室の傍に飾っていた古びた信楽茶碗を指して云ったのであった。  しかしみゆきは黙って首を横に振った。 みゆきの心の内にはその時自分の心の奥底に刺さっていたトゲが取れるかもしれないとの思いを感じていたのだろうか、  三条みゆきの脳裏には理事長のお尻を叩いてお仕置きをする事によって今迄心の中に刺さった忌わしいトゲが取れる思いを感じたのであろうか。  う~ん、 其れが望みか ? うっ、くっ、くっ、 なんと困った娘さんじゃ、 うん、うん、  源蔵は如何にも其の所望は自分の威厳が損なわれるとの嫌味を込めて云ったのだ。
 まぁ、 先生、 酷いですわ、  私にはあんな嫌らしい所望を望まれたのに、  うふっ、 ダメです、 ダメですよ、 今更そんな所望を後悔されてもダメです、  他には有りません、 絶対私が勝ったら先生のお尻を叩かせて頂きますからね、 約束ですよ、 先生、  絶対の約束です。 みゆきは云ったのだ。  う~ん、 此れは参ったわ、  約束か、 そうか、 そうか、 そんなに云うんならわしも後悔せんぞ、  よ~し、 其れならわしが勝つしかないな、 うん、うん、 よし、 分かった、 其れじゃぁ、受けよう、 あぁ、 じゃがな、 ちょっとあのな、 みゆきさん、 う~ん、 さっき言った思いっきりというモノはいかんぞ、 あのな、みゆきさんの思いっきりは限度を超えているんじゃから、 叩くといっても加減じゃ、 少しは加減せんとな、 分るじゃろ、  なっ、分かるじゃろ、 何でも叩けば良いと云うもんではないからな、 ふっ、ふっふっ、 それじゃぁ、 受けよう、  よし、よし、 勝負じゃ、 その悪魔の娘さんの所望を受けてやる、  じゃがわしが勝ったら素直にみゆきさん、 あれをな、 あれを絶対させてもらうからな、 絶対じゃぞ、 絶対の約束じゃ !   まぁ、 またわたくしの事を悪魔だなんて、 ふふっ、 はい、 分りました、 それじゃぁ、 思いっきりではなくてわたくしの気持ちがスッキリするまで思う存分に叩かせて頂きます。  良いでしょ、 先生、 それなら良いでしょ、 それならお約束しますわ、 みゆきは笑みを浮かべながらも自信に溢れる様な堂々とした顔で約束したのだった。 
 うむっ、 ?  思う存分、  何か源蔵は分からなかったが、 よし、 分かった、 約束じゃ、 約束じゃ、 何でも良い、 わしが勝てばいいんじゃから、  源蔵は思った。   それじゃぁ、始めよう、  先ずは茶の講釈からじゃな、 みゆきさん、 それじゃぁ持参した茶を見せてもらおう、 わしの用意した茶は此れじゃ、  源蔵は多恵が用意したあの偽りの半蒸抹茶を隠しながら西尾の抹茶や愛媛の荒茶をみゆきの前に差し出してお互いが持参した茶を吟味していったのであった。  おぉ、そうじゃ、 それじゃぁ、今日は筆頭茶闘師のみゆきさんが先に主人を務めてもらおうかな、 最初はわしが客人の役じゃ、 うん、うん、 そうじゃ、 今日は絶対わしが勝つんじゃから後攻めをさせてもううからな、 それぐらいは良いじゃろ、 なっ、 みゆきさん、 今迄ずっとみゆきさんが勝ってきたんじゃからな、 ふっ、ふっ、ふっ、 源蔵は冗談を交えて云ったのだ。 まぁ、 先生、 其れは良いですけど勝つのは先生では有りませんよ、 南部如月流筆頭茶闘師の称号を持つ三条みゆきも此処に来て余裕が出てきたのか薄っすら笑みを浮かべながら応えたのであった。 二人はお互いが用意した茶を見せ合い一通り其の茶に対しての口上を述べ闘茶は始まるのであった。 
  
   此処で少し茶に関する説明と二人が行う闘茶について簡単に説明をしておこう。   読者の方の中にはお茶に対してかなり詳しい方もおられると思うが一般的な話をさせて頂く。  まず茶の原料となる茶葉は毎年三月頃になると新茶の季節としてTVなどで茶摘みの風景が報じられるのは良くご存じであろう。 しかし其れは新芽の出る一番茶の事であって二番茶、三番茶、四番茶、そして収穫は地域や製法により12月、翌年の一月頃まで続くのである。   またよく誤解されるのだが、お茶の場合は各地域事に収穫された新茶の茶葉にお湯を注いで、 あぁ、今年の新茶は出来が良くておいしい、 とか云う様な簡単な訳ではないのである。 米を主原料にした日本酒の場合には、個々の酒造メーカーから単独で持ち込まれた新酒を品評会では評価される、 だが茶の場合は原産地や地元のメーカーによって茶の味がおいしいとか云々される訳ではないのである。  勿論茶の樹の北限といわれる地方から沖縄までには数多くの原産地銘柄が地域事に有り、ブランドの価値を高める為に宇治茶のように独自の製法で加工して単品で売り出される高級銘柄もあるのだが、 一般的に茶に関しては茶師という茶の葉をブレンドする専門家によって全国から集められた茶葉を配合する事によって味が決められるからなのである。  例えば愛媛県の松岡村で収穫された渋みの強い茶葉と静岡の双峰岬で収穫された甘味の強い茶葉、 愛知県新城地域で収穫された香りと深緑の色が濃く出る茶葉等を合わせてブレンドをする事により茶の味や香りまたは言葉では表しにくい独特で優美な上品な茶の色や味等は決まるのである。 この事を合組といって其のブレンドの出来不出来によって品評会ではおいしい茶かどうかを評価されるのである。  一般的に市販されてる茶の原産地表記に国産とだけ表記されているのも其の為なのである。  其処で南部如月流新茶道会で考え出された闘茶のルールが合組をされる前の個々の原産地のいわゆる荒茶という茶農家から茶問屋が直接仕入れた茶葉を利用し、利き茶する事であったのだ。  勿論茶道で使用される抹茶も其の対象ではあるのだが、 抹茶の場合は宇治や西尾等生産地が限られ、また味や香りを利き茶する事は非常に難しい為に比較的に味に渋みや香りが分かりやすい荒茶も合わせて闘茶に用いられたのである。     
  物語りで源蔵が先に客の役をしたい、という場面は闘茶では其の事を後役と云い主人役を務めた者が煎じた茶を客人役の対戦相手が利き茶をする事を意味するのである。  簡単に野球で云えば一回表の攻撃で其のピッチャーが投げた球の種類や急速を当てる。 闘茶では其れを三回、または五回繰り返して勝敗を決するのである。  又、その時主人役は公平を記す為、客役に点てた茶を将棋の封じ手の様に、裏書に自分の煎じた手口を書き表し、客人の前に差し出すのである。  客はその茶の味や香り、色や渋み等、 又、その他に主人役が何故この茶を点てたのかの口上も大事なヒントになるのである。 そして客役はじっくり味わいながら差し出された茶の産地を口上するのである。 対して主人役は封じした裏書を客役に見せ、産地が合えば客役の勝ち、違えば主人役の勝ちになるのである。 
  
 よしよし、 それじゃぁ、 始めよう、 まずは試し茶からじゃ、  源蔵は主人役となった茶闘師の三条みゆきに用意を促したのである。  源蔵の下半身はもうこの時ばかりは、先程までの歓喜と悦びにふんどしの中で大きくふくらませでいた鬼武者も小さく倒れこんでいた。  それ程この闘茶は五感のすべてを集中させないと勝てない競技なのである。  わしの勝ちじゃ、 わしの勝ちじゃ、 うっ、くっ、くっ、 いっ、入れてやる、 入れてやる、 たっぷりと、たっぷりと、 こな美しい娘の尻の穴に、 思いっきり、 思いっきり入れてやるんじゃ、   源蔵は差し出された茶を舐める様に飲み干しながら思ったのである。  そんな中、嫌らしい目つきの視線を感じつつも茶闘師、三条みゆきは微動だもせず惚れ惚れする気品溢れる美しい所作に、微塵の隙無く湯を注いでいったのである。  この試し茶とは互いに持ち寄った茶をまず最初、試しに味わう処から始まるのである。 一通りすべての茶を少しずつ飲みながらその茶の味や香りを憶え、そこからこの南部如月流独特の所作から闘茶は始まるのである。     


  蜘蛛屋敷の奥深く、 茶釜から噴き出す湯気が銀色に輝く茶室を官能に濡らす中。 男と女の卑猥な思惑が交差し、 誇りとプライドを賭けた二人の戦いが今、始まったのである。
 



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